2017-01-01から1年間の記事一覧

噓と人形

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月23日はこちらです。 『エロティックス』杉本彩責任編集 新潮文庫刊 枯れて乾いた黄色の稲穂と、同じくらい枯れて乾いた黄色の百姓の群れと、烏はすでに死の匂いを嗅ぎ付けて低い梢にとまり、不吉な声で鳴いていた。汚…

地図と領土

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月22日はこちらです。 『素粒子』ミシェル・ウエルベック著 野崎歓訳 テントの中に寝そべって、ミシェルは夜明けを待っていた。夜の終わりごろ猛烈な雷雨が訪れ、ミシェルは自分が少し恐怖を感じているのに気づいて驚い…

沈思彷徨

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月21日はこちらです。 『印度放浪』藤原新也著 朝日文庫刊 どのくらい、うとうとと浅い眠りの中に遊んだであろうか。ふたたび目覚めたとき、すでに日は西寄りにかたむき、冬だというのに、刺すような陽射しがしたたか頬…

最初の人間

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月19日はこちらです。 『転落 追放と王国』カミュ著 佐藤朔・窪田啓作訳 新潮文庫刊 そうですよ、わたしほど天真らんまんな男はちょっといないんじゃないかな。人生と完全に一致していて、人生の皮肉、偉大さ、惨めさな…

昭和遺産探訪

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月18日はこちらです。 『場末の酒場、ひとり飲み』藤木TDC著 ちくま新書刊 店の名は「しま」という。店主のルーツが沖縄にあることが由来というが、驚くべきはこの店がすべて店主の自作によるものということだ。「自分…

ぼく自身あるいは困難な存在

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月17日はこちらです。 『大胯びらき』ジャン・コクトー著 澁澤龍彦訳 福武文庫刊 彼は恋をしていたのである。(中略) 美に対する漠然とした欲望は、われわれを死ぬほどに苦しめる。 ジャックがいかに徒事を渇望して身…

思想の根源から

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月16日はこちらです。 『改訂新版 共同幻想論』吉本隆明著 角川文庫刊 〈対なる幻想〉を〈共同なる幻想〉に同致できるような人物を、血縁から疎外したとき〈家族〉は発生した。そしてこの疎外した人物は、宗教的な権力…

ドルジェル伯の舞踏会

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月15日はこちらです。 『肉体の悪魔』ラディゲ著 新庄嘉章訳 新潮文庫刊 勇気と卑怯は単に言葉としてしか存在しないものである。それらは僕たちの行為に符牒をつける。だが、どうしてその一つに軽蔑的な意味を与えるの…

詐欺師の楽園

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月14日はこちらです。 『書物漫遊記』種村季弘著 ちくま文庫刊 見世物には中身がない。だから見世物に本当とか中身を期待して、小屋に入ってからがっかりしたり、ダマされたと思ったりするのは野暮の骨頂というものなの…

母なる地球

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月13日はこちらです。 『暗黒星雲のかなたに』アイザック・アシモフ著 沼沢洽治訳 創元推理文庫刊 飛行開始後三時間のあいだ、展望室は一般船客には公開されない。大気圏を離れ、展望室の二枚扉がいよいよ開かれるとい…

熊野集

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月11日はこちらです。 『鳳仙花』中上健次著 新潮文庫刊 新宮は不思議なところだった。古いたたずまいの町に妙に人目を引くハイカラなものがある。町の中には古びたスペイン風の建物がいくつかあった。そのハイカラは材…

無名戦士の神話

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月10日はこちらです。 『真冬に来たスパイ』マイケル・バー=ゾウハー著 広瀬順弘訳 ハヤカワ文庫刊 「それは世界社会主義革命と呼ばれていました」その言葉は、いったん口に出してみると、われながら大仰で、うつろに…

いずれ我が身も

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月9日はこちらです。 『引越貧乏』色川武大著 新潮文庫刊 私は面倒臭がりやのわりに方々を旅して歩いている。昔、ばくち場を伝わって歩いたからで、乞食旅だし、そのぶん巣造りをおろそかにしているが、だからこの近鉄…

砕かれた夜

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月8日はこちらです。 『ベルリン・レクイエム』フィリップ・カー著 東江一紀訳 新潮文庫刊 〝チクロンB。有毒ガス!危険!湿気を避け、冷所に保存せよ。直射日光及び火器に近づけないこと。開封・使用にあったては、最…

遊古疑考

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月7日はこちらです。 『小説日本芸譚』松本清張著 新潮文庫刊 織部は、その舟の中に居づくまっているであろう利休の姿を想像していた。それが茶席に少し前屈みの格好で坐っている七十歳の師匠の姿になっていることに不…

ビースト

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月6日はこちらです。 『飲んだくれ』ピーター・ベンチリー著 金子宣子訳 光文社文庫刊 これまでに考える時間が四時間ほどあったので、ブレストンは自分の置かれた状況を整理しておいた。まず、妻と娘と上司は、おれが酒…

赫奕たる逆光

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月4日はこちらです。 『文壇』野坂昭如著 文春文庫刊 ベッドの高みより打ち眺めて判ったことは、現代風俗を描く作家は、多く純文学系、後、司馬を除いて変りばえしない時代小説。刮目すべきが推理の分野。三十四年、「E…

九つの物語

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月3日はこちらです。 『フラニーとゾーイー』J.D.サリンジャー著 野崎孝訳 新潮文庫刊 フラニーが意識を取り戻したのは、それから五分近くたってからであった。彼女はマネージャーの部屋の寝椅子の上に寝ていて、傍にレ…

こちらニッポン・・・

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月2日はこちらです。 『果しなき流れの果に』小松左京著 ハルキ文庫刊 その時、野々村は、唾をのみこもうとして、口の中がカラカラにかわいてしまっているのに気がついた −彼は眼をむきだして、それを見つめた。 形はど…

ワイルド・ブルー

復活!!!今日のおすすめ本。2017年10月1日はこちらです。 『上空からの脅迫』S.L.トンプソン著 高見浩訳 新潮文庫刊 ドアをあけると、キーズではおなじみの光景が待っていた。ここは若いヤッピーたちが目を輝かせてBMWやワインやエイズを論じるためにやっ…

48億の妄想

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月30日はこちらです。 『介護入門』 モブ・ノリオ著 文春文庫刊 狂う真似から始めることと芯から狂うことの境目はどのあたりから曖昧になるのだろう?狂ってる奴が唯一認めたがらないのは、己が救い難く狂ってるってこと…

雨晴れて月は朦朧の夜

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月29日はこちらです。 『ベスト小説ランド1987 2』日本文芸家協会編 角川書店刊 最初にそれを見た時、ぼくは、伊沢良江が小さな人形か何かを、自分の左肩に乗せているのかと思った。 身長が二〇センチくらいの、小さな裸…

鉄騎兵、跳んだ

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月27日はこちらです。 『振り返れば地平線』佐々木譲著 集英社文庫刊 ゴーグルの隅に、水滴がコツンとはじける。 時間を置いてもうひとつ。 ぼくは道の先に据えた視線を空へと振った。国道235の行く手の空には、低くグレ…

黙阿弥オペラ

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月26日はこちらです。 『パロディ志願』井上ひさし著 中央公論社刊 まず、パロディは鏡のようなものではないだろうかというのが、わたしの最初の思いつきである。それも、ただの鏡ではなく正確に歪んだ鏡ではないだろう…

Mr.クイン

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月25日はこちらです。 『わが名はレッド』シェイマス・スミス著 鈴木恵訳 ハヤカワ文庫刊 おれはやつの口を封じる必要があった。 すばやく身を乗りだし、やつの頭を気絶するほど強くハンドルにたたきつけて、座席の後ろ…

世紀末の街角

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月24日はこちらです。『ヨーロッパの誘惑』海野弘著 丸善ライブラリー刊 エドワーディアンのライフ・スタイルは、快楽追求であった。肉体的な喜びといえば、セックスや着飾ることがあるが、まず食べることであった。おい…

泣き出した女

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月23日はこちらです。 『賢い人の愚かな犯罪』佐野洋著 文春文庫刊 そのうち千はあることに気がついた。 母親たちは、揃って上気したような顔で、誇らしげな視線を、それぞれ、自分のこどもに注ぎ、ときどき、思い出した…

ペガーナの神々

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月22日はこちらです。 『世界の涯の物語』 ロード・ダンセイニ著 中野善夫・中村融・安野玲・吉村満美子訳 河出文庫刊 星々から凍てつく風が吹きおろす。アクロニオンの道は初めは危険な登りだったが、ほどなく断崖から…

太鼓叩きはなぜ笑う

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月20日はこちらです。 『死のある風景』鮎川哲也著 角川文庫刊 春日節子らしい屍体が発見されたという知らせがはいったとき、百済木忠雄はちょうど食事をしているところだった。めしを止めてすぐゆきますと答え、果して…

幻影

復活!!!今日のおすすめ本。2017年9月19日はこちらです。『死角』ビル・プロンジーニ著 高見浩訳 新潮文庫刊 北二十五番街二千五百十九番地に建っていたのは、広々とした鮮やかな緑の芝生で隣家と隔てられた、堂々たるベージュ色の化粧漆喰塗りの邸宅であ…