噓と人形

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年10月23日はこちらです。


『エロティックス』

杉本彩責任編集 新潮文庫


 枯れて乾いた黄色の稲穂と、同じくらい枯れて乾いた黄色の百姓の群れと、

烏はすでに死の匂いを嗅ぎ付けて低い梢にとまり、不吉な声で鳴いていた。

汚れた裸足の下で、土は果てなくひび割れていた。

竜神様に、お願いするしかねえで」

「そうじゃ、こうなりゃあもう、水神様を拝むしかねえんじゃ」

 日照りの度に、村では死者と行方知れずの者が増えた。年寄りは餓えて

乾いて死に、子供は近隣の村や遠方の色街に次々と売られていった。

 ハルは無彩色の思い出の中、そんなところだけを極彩色で記憶している。

そうだ、地獄絵はどれも鮮やかすぎるほどの色彩に溢れている。

 岡山には冬も春もあるのに、ハルの思い出はすべて夏だ。枯渇して黄色い

風景だ。炙られ照らされ一滴の涙も血も搾り取られた炎暑の季節だ。

「水神様、雨を降らしてつかあさい」

 痩せこけた村人達は、祈祷の他に為す術がなかった。ハルのおっ父も、

それからまだ小学校を出たばかりの兄の千吉も、その祈祷に駆り出された。

子供も年寄りも、その集落すべての男が雨乞いの踊りに出されたのだ。

「降らしてつかあさい」

「生贄でも何でも、捧げますけん」

岩井志麻子著「魔羅節」本文より)


こちらは現在絶版となっております。

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日々のおすすめ本から、

お気にいりの一冊が見つかりますように。

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ごきげんよくお過ごしください。