いずれ我が身も

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年10月9日はこちらです。


『引越貧乏』

色川武大著 新潮文庫


 私は面倒臭がりやのわりに方々を旅して歩いている。昔、ばくち場を伝わって

歩いたからで、乞食旅だし、そのぶん巣造りをおろそかにしているが、

だからこの近鉄鳥羽線もよく利用していた。公営の賭場だけをあげても沿線に、

四日市のはずれの霞ヶ浦競輪場、津競艇、松坂競輪場、がある。

「だから、俺は自分の家の線みたいなものだが、まだ松阪にはおりたことがない」

「へええ、それじゃァ、あの牛肉屋に行ってないのか」

「ああ −」

「そりゃァちょうどいい。降りて寄って行こう」

(中略)

 私たちは松阪で下車した。古い面影を残している街で、街並みがそう

変っているとは思えないが、全校的にかなり名を知られたその牛肉屋の見当が、

つくようなつかないような。大まかな記憶でこのへんと想ったところを二三度

往来したが、ない。そのうちに逐琢が、蓋をした空家のようにひっそりと

閑している家の前で、なァんだ、ここだ、といった。第四木曜日は定休日、

と書いてある。

「ほうら、はじまりやがった −」と逐琢が笑いだした。「月に一度の休みに

ぶつかるんだから、君の威力はすごいなァ」

(中略)

 私たちは三十分後、見知らぬステーキハウスに居た。とにかくビールを呑み、

生ハムとステーキを頼んだ。生ハムは前菜のつもりだったが、東京で時折り

行く店とちがって皿の上に盛りあがっている。ステーキも大きい。

「おい、どうするんだ、こんなに来ちゃって −」

(「暴飲暴食」本文より)


こちらは初版本で現在絶版となっております。

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お気にいりの一冊が見つかりますように。

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