今日のおすすめ本。
2016年9月13日はこちらです。
『ファスト・レーンズ』
ジェイン・アン・フィリップス著 篠目清美訳 白水社刊
ケイトゥはわたしたちとは違っていた。いろいろな意味で彼女はおとなのような生活を
していた。彼女は好きなように学校を出たり入ったりしていた。彼女には仕事があった—
玉突き場でサンドイッチを作り、警察が巡回に来ないときはバーで生ビールをついでいた。
シナーとふたりの兄のために曲がりなりにも家事も切り盛りしていた。兄たちはいずれも
オハイオの製鋼所に勤めており、ほとんど家にいることはなかったが。彼女は学校関係の
様々な女子のグループの仲間になることは決してなかった。YMCAやガールスカウトの
メンバー、女子の会合や教会のキャンプの代表になることもなかった。わたしのほうは
そういうグループに属しながら、なおも彼女に対して不安定な親近感を抱いていた。
たぶんわたしが引っ掛かっていたのはそのことだったろう。
彼女は長いことアウトサイダーだった。
(中略)
ケイトゥは本当に多くのことを知っていた。彼女は見捨てられるということが
どういうことか知っていた。何年も前、母親が家出してしまったから。彼女は
大酒飲みのこともわかっていた。シナーが時々酔っ払うから。男や少年のことも
わかっていた。玉突き台の下で人形ごっこをしていた四歳の頃から、男たちの友情、
喧嘩、ギャンブルを眼にしてきたから。十二歳にして彼女はバーのカウンターの
後ろでチーズサンドイッチを作ったり、冷凍ピザを暖めていた。そのときすでに、
彼女は女のことも知っていた。父や兄たちが女を家に連れ込んだから。
彼女はいかにおとなしくしているべきかということも知っていた。男前で放蕩な
シナーは時折、人妻とも関わったから。まあ女客はたいがいトラック休憩所の
ウェイトレスだったけれど。彼女は街で唯一の玉突き場の二階に暮らしている
自分たち家族をベリントンの町がどう見ているかも知っていた。
(「ブルー・ムーン」本文より)
こちらは初版本で現在絶版となっております。
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