国境の向こう側

今日のおすすめ本。

2016年1月6日はこちらです。


『二十一の短編』

グレアム・グリーン著 高橋和久、他訳 ハヤカワepi文庫刊


 フィリップ・レインは下に行ってベーズのドアを押した。食料室を

のぞいても ベインズがいなかったので、初めて階段を下りて地下室に

行ってみることにした。そのときまた彼は感じた。これが生きるって

ことなんだ。これまで子供部屋で過ごした七年間が、見慣れないものや、

新しい体験で揺さぶられた。いっぱいになった頭の中は、まるで遠くの

地震の衝撃で震える地面のようだ。不安はあったが、これまでになかったほど

幸せだった。すべてが以前よりも重大なのだ。

 ベインズはワイシャツ姿で新聞を読んでいた。「よく来たね、フィル、

まあくつろぎたまえ。ちょっと待ってくれよ、ごちそうするから」

彼はそう言って、白くてきれいな食器棚のところに行き、ジンジャービアの

ボトルとダンディケーキ半分を持ってきた。「午前十一時半か」とペインズが

言った。「開店時刻だな」彼はケーキを切ってジンジャービアをついだ。

フィリップがこれまでに知っていたよりも愛想がよくて、ここが自分の家とでも

いうように、くつろいでいる。

(中略)

 ウィンドウの中にある、ナプキンを敷いたピンクのシュガーケーキ、ハム、

藤色のソーセージ、小さな魚雷のように窓ガラスに体当たりするスズメバチが、

フィリップの目を惹いた。彼は舗道を歩いて足が疲れていた。道を渡るのが

怖くて、通りの端に広場が見える。ここはピムルコのはずれの薄汚い場所で、

お菓子はないかと窓ガラスに鼻をくっつけると、ケーキとハムのあいだに、

いつもとは違うベインズが見えた。はれぼったい目と、禿げ上がった額を見ても、

ほとんどベインズだとは思えなかった。ここにいるのは、幸せで、大胆で、

海賊みたいなベインズだった。ただ、近づいてよく見れば、必死になっている

ペインズだったけれども。

(本文より)


「地下室」は自身の脚本を執筆し、キャロル・リード監督の手によって、

『落ちた偶像』のタイトルで映画化されています。


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日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。



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