今日のおすすめ本。
2016年1月12日はこちらです。
『レギュレイターズ』
カーヴァー家のドライブウェイにたどりついたマリンヴィルが、ラルフの視線を
追って坂道の上に目をやると、また新たに二台のワゴンがベアストリートから
ポプラストリートに進入してくるのが見えた。前のワゴンはキャンディピンク色で、
すばらしい流線型のその車体は、マリンヴィルに遮光フィルムを貼った窓をもつ、
巨大な<グッド&プレンティ>キャンディを連想させた。ルーフの上に
バレンタインハート形のアンテナを搭載している。いまとは異なる状況のもとで
見れば、キュートなワゴンといえるだろうが、この状況のもとで見れば、異様で
不気味としかいいようがない。ピンク色のワゴンの車体の両サイドには、なにやら
流線型のものが突きでている。ヒレというか、ずんぐりとした翼にも見える。
(中略)
二台のワゴンはスピードをあげ、エンジンが軽やかなハム音をひびかせた。
ピンクのワゴンの車体の左側面に大きな銃眼がまぶたを開いた。霊柩車が
機関車に変身しているかのように、黒いワゴンのルーフに搭載された
〈サルの腰かけ〉がスライドして、ショットガンをかまえた人物がふたつ、現れた。
ひとつはひげを生やした人間の男。青いワゴンを運転していたエイリアンと同じく、
この男も南北戦争時代の軍服を着ているが、この軍服はぼろのようにずたずたに
裂けている。銀ボタンのついた黒い詰め襟。黒とクローム装飾のワゴンと
同じように、なにやらナチの制服を思わせるところがあるが、マリンヴィルの
目を奪い、生態を凍りつかせて警告の叫びを封じたのは、その点ではなかった。
詰め襟の上にあるのは、闇だった。顔がない。ピンクのワゴンと漆黒の
ワゴンから銃撃が始まる寸前に、マリンヴィルはそう思って愕然とした。
顔がない。あいつには顔がない。
(本文より)
リチャード・バックマンはある著名な作家の別名。
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