落ち葉の下の生きものとそのなかま

今日のおすすめ本。

2015年12月21日はこちらです。


『多足類読本 ムカデとヤスデ生態学

田辺力著 東海大学出版局


 いつものように杉の林に入り、小型の熊手で落葉を払いのける。緑の4cmほどの

ヤスデが姿を見せ、くるっと渦巻になる。「ああ、またいてくれたか」と声を掛けたい

心情にかられる。静かな林の中でヤスデと私だけになったような心持になる。杉の林の、

どこか線香を思わせる香りをかぎながら、ヤスデをビンに入れ、胸のポケットに

しまい込む。さらさらと風が吹き、汗が乾いていく。人はヤスデを調べている人間を

どう思うのだろう。

(中略)

 生きものが好きな人はどこか気持ち悪いものへの愛着を持っているように思える。

生きものへの感情で主なものは、きれい、かわいい、気持ち悪いの3つだろう。

私の予測によれば、多足類を好きになれたら、気持ち悪いと感じる生きものは

減っているはずだ。そうでなくても、単なる「気持ち悪い」から「気持ち悪いけど、

どこかかわいい」ぐらいには変わって欲しい。グロテスクなものの奥底にある美を

ぜひとも感じとって欲しい。本書はそういう願いを込めて執筆した。

(中略)

 生きものに親しむには、やはり直にふれるのがよい。幸い多足類は身近なところに

いるので、採集、飼育、観察にはもってこいである。採集、飼育、観察には自由な

要素がたくさんある。ここぞという林を見つけて採集にいくのは野性味があって楽しい。

狩猟本能を発揮しよう。飼育では思いついた新しい方法を試してみるのもよいだろう。

観察の中で出会う日々の小さな発見も見逃せない喜びである。まさに自然を調べる

喜びとはそういうものなのだろう。

(「はじめに」本文より)


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