復活!!!
今日のおすすめ本。
2017年10月17日はこちらです。
『大胯びらき』
彼は恋をしていたのである。
(中略)
美に対する漠然とした欲望は、われわれを死ぬほどに苦しめる。
ジャックがいかに徒事を渇望して身をすりへらしたかは、作者がつとに
説明したところである。つまり、われわれの眼ざしがどんなに狂おしく
射貫こうとも、その対象たる肉体に、対象たる顔に、少しも手応えがなければ、
所詮それはわれわれにとって徒な望みの対象ではないかというのである。
しかるに今度は、欲望が感受性の強いある表面にぶつかったのである。
ジュルメェヌの返事はジャックの姿そのものの反映だった。それはあたかも、
さえぎる者がなければ一条の白い光の束に過ぎない映画が、スクリーンに
ぶつかって映像を生むようなものであった。ジャックは彼女の欲望の中に
己れの姿を見た。自分自身との初めての邂逅は彼をまごつかせた。
彼はジュルメェヌの中に己れを愛していた。で、それからというものは、
彼は理想に到達せんとする努力もなさず、無自覚に己れの人格を
伸ばしてしまうのだった。
(中略)
要するに、無数の行きずりの人の中の一人が、立ち止まったのである。
彼が罠の俘虜にしたわけだ。ともすると、この一人の女の故に、
彼はすべての街々を、到着した最初の晩に見るすべての町々を、
旅情をそそる港々の気候を、イジーとチグラン・ディプレオを、
金狼のような犬を、ジュネーブで見た軽業師の一行を、そしてローマの
サーカスの女曲馬師を、愛していたのかも知れなかった。
(本文より)
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