復活!!!
今日のおすすめ本。
2017年9月23日はこちらです。
『賢い人の愚かな犯罪』
佐野洋著 文春文庫刊
そのうち千はあることに気がついた。
母親たちは、揃って上気したような顔で、誇らしげな視線を、それぞれ、自分の
こどもに注ぎ、ときどき、思い出したように、千の方を見るようにしていたが、
その中に、ひとりだけ、顔をうつむきかげんにし、しかも、千の視線を避けるように、
隣り合った人のかげに身を隠している母親がいたのである。
もっとも、最初は、千も大して気にしなかった。だが、こどもたちに話しかけ、
ふっとその母親の方に目を上げたとき、彼女は、またも、顔を伏せるように
してしまった。
そして、その、ほんのわずかの瞬間に、千は、彼女の顔を見てとったように思った。
彼は、はっとした。児童たちに話しかけていた言葉が、とぎれかかりさえした。
頭の方から、すうっと、血が下がるのが、自分でもわかった。そして、次には、
その血が再び頭へ上がって行く。
(中略)
ついに、千は誘惑に負け、もう一度、その母親の方に視線を向けた。
やはりそうだ。間違いないと千は思った。こんども彼女は顔を伏せていた。しかし、
からだ全体の感じ。ことに首から肩にかけての線は、〝あのときの女〟のものであった。
(「汚れた手錠」本文より)
こちらは初版本で現在絶版となっております。
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