ヤギより上、猿より下

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年11月1日はこちらです。


『いま、殺りにゆきます』

平山夢明著 英知文庫


 ある日、高橋がバイトから帰ってくると外灯の下に女がいた。

「十二月の暮れ近かったですねぇ」

 女はぺらぺらの薄手のシャツに裸足だったという。

 顔色は肌と同じように真っ白だった。

(中略)

 高橋は足早に階段に向かった。

 外階段を登り切り、気になって振り返ると。

 真後ろに女が立っていた。

 それも息と息が触れ合う傍にいたのである。

 思わず驚きの声が漏れた。

 すると女はにやりにやりと笑いつつ、両手を万歳するように宙に突き出し、

「ふりーずぅ、ふるーずぅ」

 と、くり返しながら階段を下り一番下で振り返ると、

「馬鹿者」

 と呟いて駆け出して行った。

(中略)

 ある夜、と言っても既に朝方に近い時刻ではあったが女の絶叫が

聞こえた。

「それが単なる叫び悲鳴じゃなくて」

 聞く者に生理的嫌悪感を催させるような怒り憎しみの入り交じった

絶叫なのだという。

「こう聞いているだけで、じわっと最中に汗がういてくるような・・・。

あんな声って初めて聞きましたよ」

 その絶叫の合間にバンバンと何か殴りつけているような音が続いていた。

 見るとあの女が角の掲示板を滅茶苦茶に殴りつけていた。

 目は虚ろで口からは泡のようなものが噴きこぼれていた。

 異様だったのは女は素足にブルーのネグリジェ一枚、その腰から

下の辺りが赤くぬらぬらと濡れて外灯の明かりに光っていた。

 「ぐわぅぁぁ。ああああああ・・・ぐがうわぁ・・・」

 女の拳は潰れてしまったのか真っ赤になっていた。

〈ゴミは責任を持って出しましょう〉とか訃報の貼られた掲示板は

歪んでしまっていた。

 自分と同じように近所でも窓の隙間から様子を窺っているのか、

文句を言ったり、飛び出したりする人間は皆無だった。

 ところが、どうしたことか女がぴたりと掲示板を殴るのを止めた。

止めて何か獲物を見つけたかのように一点を目の玉を飛び出すように凝視する。

「冗談だろぉ・・・」

 高橋は呟いた。

 女は二階の窓から覗く高橋を見つけていた。

(「しつけてるんです」本文より)


こちらは初版本で現在絶版となっております。

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