今日のおすすめ本。
2016年1月24日はこちらです。
『男たちのかいた絵』
伊勢が出て行くと、縞田は拳銃を点検した。ルガーのオートマティック八連発で、
安全装置がかかったままだった。これじゃ伊勢が乾に馬鹿にされるのはあたり前だ、
と思いながら縞田は安全装置をはずした。
「こら。わけもわからずに素人が拳銃をいじりまわすんじゃねえ」乾が叫んだ。
縞田は乾を睨みつけた。縞田が安全装置をはずすのを見ていたらしく、乾の
顔色が変っていた。急に怯えはじめた様子で、声も顫えている。幹部の誰かに
痛めつけられたらしく、彼の唇の端は切れて、まくれあがっている。
「あらそうないいかたをするな。鳴戸会のちんぴらどもとはわけがちがうぞ」
あの唇の切れた部分を、もう一度拳銃の尻で殴りつけてやろうか、と、縞田は思った。
だが残念なことに、乾の貫禄は手足を縛られていてさえ彼に勝っていた。
縞田はわざと拳銃のあちこちを撫でまわし、ぎくしゃくした手つきでもてあそんだ。
「拳銃をもたされたのは、はじめてだ」けけけ、と、彼は笑ってみせた。
（中略）
縞田は右手で拳銃を構えたまま、左手で乾の手足の紐の結び目をほどいた。
「こうすればお前が逃げようとしたことになる」
「馬鹿なことをするな」
「どうせ、おれは馬鹿だ」縞田はいった。「そうか。馬鹿とぬかしやがったな。
撃ち殺してやる」
兇悪な表情には自信があった。
「馬鹿とはいっていない」
「さあ、逃げろ。どうせ撃ち殺してやるんだぜ。じっとしたまま殺されたいか」
「いやだ」また乾が顫えはじめた。
「じゃあ、逃げろ、逃げられるかどうか、やってみろよ。ぶっぱなしてやるから」
（「夜も昼も」本文より）
この作品は豊川悦司主演で映画化もされております。
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