煙が目にしみる

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年8月29日はこちらです。


『1980 アイコ十六歳』

堀田あけみ著 河出書房新社

 アイコは多趣味な人間だが、屋根に登ることがその中の一つであるとは、

自分でも尋常とは思えないむきがある。しかし、季節を問わず、

時間を問わず、むらむらっと登りたい、という切実な欲望がわいてくる。

そうなるとどんな条件の下であろうと、果敢に登っていくのである。

といっても、その道のりは別に困難ではない。アイコの家のつくり

というのが、屋根に登ってくれと言わんばかりで、物干し台から屋根へと

嬉しくなるほど容易に移ることができるのだ。そこで、アイコは

たいした理由もなく衝動的に登って行く。趣味には理由なんていらんもんね、

と家族から奇人呼ばわりされるたびにアイコは言うのだ。

(中略)

 とにかく、屋根の上で大の字に手足を伸ばす。左手から、早い朝の光。

目を細めて右を向く。やっぱり左を見た。ぎりぎりまで光を見つめてやる。

目が痛い。けど、こうしていると、普段は忘れてしまっていることを

思い出せておもしろい。アイコの人生、今までは長く感じてるけど

ほんの何分の一かにすぎない。それなのに、悲しいことも嬉しいことも

世界中の指を動員させないと数えきれない。

 やっぱり、この世ってのを、こうして生きてくっていいことだ。

(本文より)


『アイコ十六歳』 今関あきよし監督


単行本版は現在絶版となっております。

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日々のおすすめ本から、

お気にいりの一冊が見つかりますように。

今日も明日も明後日も。

ごきげんよくお過ごしください。