今日のおすすめ本。
2016年8月29日はこちらです。
『マッド・サイエンティスト』
「常識だよ」フェスタングが言った。「常識と単純計算さ—伝染病に
必要なのはそれだけだ。好きなだけ歴史をさかのぼってみればわかるが、
どの時代もそれぞれ特有の致死病があった。過去の世界での大きな疫病と
いえば—レブラやコレラや黒死病だった。どれも襲い来ては去っていった。
消滅する前に何百万という死者を残して。しかもその大部分はどんな
病気であったのか確信することすらできない」
(中略)
「伝染病がそのコースをただ突走り、消滅した例は、はるかに多かったよ」
フェスタング博士は彼の意見を却下するような調子で言葉を続けた。
「それなら現代の、文明国の場合を考えてみたまえ—きみの言うその
ロンドン大火のあと、実際にはネズミの優葉生種がかわり、腺ペストが
減少していった。欧州に産業革命がおこり、それとともに天然痘が、
そして結核が襲った。すこし年代をずらせば、わが国の状況も同じだ。
よろしい。天然痘にはようやく種痘ができた。だが結核はどうだ?
その原因は?当時は最大の殺人鬼であり、今はごく珍しい病気だ。
その消滅に医学がほとんど寄与していないのは知っているね。
そのあとはインフルエンザだ。何百万人が死んだ。
医療水準が現在ほどではなかったというだけの理由だけではないぞ。
くそっ、今でもわれわれはインフルエンザに対して、あまりに打つ手が
ないんだ。フロンバーガーの話では、彼の研究によると毎年二、三の
まったくあたらしい種のインフルエンザが、いわば“生まれている”そうだ—
こちらにはそれだけはわかっている。くそっ、今でもわれわれには
今世紀初頭の大量殺人の犯人がどの種なのか特定できないんだ。
それに混乱のことを言えば、“流感”という言葉で、なぜいくつもの
バクテリアとウィルス種やその亜種をひっくるめなきゃいけないんだ」
(「エリート」本文より)
こちらは旧装版で表紙ちがいとなっております。
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