赤いランドセル

しれっと復活!!


今日のおすすめ本。

2016年7月11日はこちらです。


『この子の七つのお祝いに』

斎藤澪著 カドカワノベルズ刊


「そんなところに立っていないで、坐ったらどうだ!」

 膨らんだ小鼻。突き出した腹。煙草を挟んだ指の形。今日の柏原徹は

不機嫌というよりも、雑誌社の重役いう立場を剝き出しにしていた。

母田耕一は軽く会釈し、柏原徹の脇に深く腰かけた。

 客の一人は初老の男、もう一人は、その甥といってもよさそうなほど、

二人はどことなく似ていた。二人は刺すような目で母田耕一を迎えた。

その目と彼らが放つ雰囲気で、母田の嗅覚は彼らの職業を捉えた。

それは昔からつき合っている臭いだった。

 挨拶したのは、まず客の方だった。もちろん名刺を見るまでもなく、

二人が刑事であることはわかっていた。柏原徹が至急、社に来いと

いった理由はこれだったのか。

「母田です」

 母田耕一はそれだけで言葉を切った。

(中略)

「お前さんはいまだに刑事嫌いが治っていないみたいだな」

 母田に二杯目のビールを注ぎながら、柏原徹がいった。

「よくわかっています。共存共栄—この主義でこれまでやってきたんですから」

「あれでおわかりになっているつもりですかね。まあいい・・・」

(中略)

「昔の怨みは忘れることだ」

 そのとおりだ。あの事件のおかげで、おれはかえって自由の身になれたのだ。

しかし・・・と母田は思った—そうはいってもあの時のことを思い出すたび、

母田の胸は屈辱と忿怒で息苦しくなってくるのだった。

(本文より)


表紙の根津甚八さんがお若いですね。

映画版の予告編はこちらをご覧ください。


『この子の七つのお祝いに』

増村保造監督 1982年


こちらは初版本で現在絶版となっております。

信販売もさせていただきますので、

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日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。