今日のおすすめ本。
2015年12月15日はこちらです。
『温泉と健康』
阿岸祐幸著 岩波新書刊
三〇年も前のことだが、ドイツで開かれた学会で、「入浴によるからだへの
影響」について発表したときに思わぬ反応を受けたことを思い出す。この報告は、
高温だが日本人にとっては飛び抜けて熱いとはいえない四二度での入浴と、
かなり冷たくて刺激的な二五度での冷水浴とを比較検討したものだった。
質疑応答に移って、まず最初に出た質問は「四二度もの高温浴を人に対して
行うのは、刺激が強すぎて倫理的に問題ではないか」というものだった。
「ヨーロッパでの日常の入浴は三六ー三八度であり、四二度は超高温浴になる」
というのである。その後ドイツから知り合いの温泉学者が何人も来日したが、
四三度の温泉に入って「煮えたぎったスープに飛び込んだようだ」と
感想を述べた人がいた。しかし日本では、草津温泉の「時間湯」のように、
四七ー四八度の高温に耐えられる人もいる。
一方で、筆者が二五度の冷水浴に対して「強い冷刺激をかけた(負荷した)」
と説明したことについては、「二五度では、からだにそんな強い反応が
起きるとは考えられない」とのコメントがあった。現にドイツの温泉保養地では、
水中運動の前に浴びるシャワーは二五度ー二八度だった。ドイツ北部の北海や
バルト海の海岸で行っている海洋療法(タラソテラピー)では、一〇度ほどの
水温で海水浴をすることもある。私たち日本人が、二五度の風呂にじっと
入っていたならば、一分間もしないうちにがたがた震えてくる。
(本文より)
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