人情裏長屋

今日のおすすめ本。

2015年11月2日はこちらです。


『なんの花か薫る』

山本周五郎著 新潮社刊


 男の苦笑する顔を見たとき、栄次はその男が好きになった。ごく稀にでは

あるが、顔を見ただけで、初対面にもかかわらず、古い馴染みのような好意を

感じることがある。そのとき栄次は六十余日もみじめな、屈辱と孤独の日夜を

経験したあとだったので、特に感じかたが強かったのかもしれないが、それでも

なお、その感じに誤りはなかった。

 二度めに(この中井掘で)会ったとき、二人は名のりあった。男は「官と

よんでくれ」と云った。どんな字だと訊くと、左官の「官」だと答えた。二人は

気性が合った、どちらも口かずが少ないし、用もないことを訊いたり、話したり

するようなことはなかった。三度、五度と会い、いっしょに中井堀で釣をしながら、

殆んど話らしい話をしない。しかもそれが、お互いの気にいっているようであるし、

黙っていても意思はよく通じあうようであった。

 釣の下手なことも、二人はよく似ていた。下手というよりも、釣る気がないと

いうふうで、特に男のほうは、少し大きなものが釣れたりすると、ひどく戸惑って

「どうしたらいいか」とでも云いたそうに、栄次を見るのであった。

(「凍てのあと」本文より)


こちらは現在絶版となっております。

信販売もさせていただきますので、

お気軽にお問い合わせください。

69fabulous@gmail.com


日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。




The Birthday NEW ALBUM『BLOOD AND LOVE CIRCUS』。


『モア・ビート』と並べて販売しております。



オリジナル特典ポスターも若干枚数残っておりますので、

まだお持ちでない方はお早めにご検討ください。



Fabulousの開店5周年を記念いたしまして、

RUDE GALLERYとのコラボレーションアイテムを販売しております。


RUDE GALLERY DAILY EQUIPMENT × Fabulous ブックカバー


RUDE GALLERY × Fabulous トートバッグ


詳細はこちらをご覧ください。

http://d.hatena.ne.jp/fabulous69/20150731