鬼降る森

今日のおすすめ本。

2015年11月3日はこちらです。


エレクトラ 中上健次の生涯』

高山文彦著 文藝春秋


 なんでもない行動が、ときに人間に新しい世界へのドアをひらかせることが

ある。それは人によっては歓迎されざる世界であったりするが、文学の魔界に

引き込まれてしまった健次にとって、彼がまもなく出会うことになる無軌道で、

やさしくて、過激で、頽廃した世界は、これまでの密閉された故郷での自我を

一気に解放させ、彼の文学に多大な影響をあたえることになる。

 そのドアがひらいたのは、「DIG」へ行ったあくる日のことだ。

(中略)

いくら歩いても「DIG」には行き当たらず、迷いに迷ってたどり着いたのは、

歌舞伎町の「JAZZ VILLAGE」というジャズ喫茶だった。

 学生服姿の健次はどこへ座ろうかときょろきょろし、いちばん奥の席に

目立たぬように座った。女を膝に抱いたこげ茶の革ジャン姿の長髪の男が声を

かけてきた。名乗れと言う。品定めするような口ぶりが、自分こそこの店の

主だと語っていた。

「ナカウエです」

 健次がこたえると、混血ではないかと思えるような彫りの深い顔だちを

したその男は、

「下は?」

と訊く。

「ケンジです」

「どこから来た」

「シングゥ」

(中略)

 延々と質問を浴びせる男は、リキといった。見るからに不良だった。

クスリをやっているのか、薄くラリッていた。

 新顔が店にはいって来ると、たいていこうして質問を浴びせ、そして

たいていの場合、相手が震えあがるような大声を出して追い出すのが

常だったが、どういうわけか健次にはそうしなかった。

 リキの身体からは暴力と孤独が匂いたっていた。そのうち仲間の男や

女たちがつぎつぎに集まって来て、健次のまわりをとりかこむようにして

座った。たまたま腰掛けた席が、彼らの指定席だったのだ。

「このデブを、今日からおれらの仲間にする」

と、リキが言った。

「名前はケンジ。デブケンだぜえ」

 その日から健次は、「ジャズビレッジ」を根城に無軌道な青春を

過ごすようになる。

 だれかが「中上」の文字を見て、「ナカガミ」と読みまちがえた。

それをきっかけに自分でも「ナカガミケンジ」と名乗りはじめた。

(「第二章 変身」本文より)


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