今日のおすすめ本。
2015年11月16日はこちらです。
『ノンステップ！』
サイモン・カーニック著 佐藤耕士訳 文春文庫刊
その瞬間、ドアがぱっと開いた。目の前に立っていたのは、ペンキの
染みがついたスカイブルーのオーバーオールを着て黒い目出し帽をかぶり、
手袋をした背の高い男だった。胸の前でナイフを握っている。黄色い柄に
湾曲した長い刃がついたタイプで、魚おろし用のナイフに近い。その切っ先が、
血でどす黒く汚れている。
一瞬、双方とも微動だにせず、たがいを見つめあった。距離は五メートルほど。
恐怖を感じる間もなかった。悪夢のような衝撃に全身を貫かれ、その場に
凍り付いていた。つぎの瞬間、男は戸口から飛び出し、殺意をこめてナイフを
振りあげながら、大股で走ってきた。
（中略）
椅子を挟んでの揉みあいはさらに数秒続いたが、いまではぼくは攻撃されやすい
状態になり、男がいきなり降り出したナイフで、肘のすぐ下の前腕部分の肉が
すぱっと切られた。灼けるような感覚が走ったが、痛くはなかった。激しい
アドレナリンの分泌のおかげで痛みを感じないのだ。ぼくは歯を食いしばった。
シャツの細い裂け目から血が噴き出してくるのが見える。するとふたたび
ナイフが空を切った。今度は避けなければならない。顔を逸らしたものの、
ナイフは頬の下の顎を切っていた。また灼けるような感覚があって、首筋に
血が滴り落ちるのがわかった。
（本文より）
こちらは初版本となっております。
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