踊るジョーカー

今日のおすすめ本。

2015年11月17日はこちらです。


『少年検閲官』

北山猛邦著 創元推理文庫


 本質はどこにある?

 目に見えるものが、いまや不確かな幻になりつつある。自分のしっているもの、

見えているもの、触れているもの、そして言葉の意味さえ—

 考えてはいけない。

(中略)

 箱庭世界の話はすべて彼女の妄想に決まっている—

 妄想だとしても、その想像力には圧倒される。想像とも創造とも無縁な日々に

おいて、やはり彼女は異質である。『探偵』の存在や、この閉鎖された町について、

疑問を口にする人間はいないでもないが、なんらかの推察を披露してみせたのは、

彼女一人である。

 クシエダは彼女のことを思い出していた。彼女を目の前にした時は何も

思わなかったのに、今では、彼女の長い髪が、勝気な目が、はにかんだ

悪戯っ子のような口調が、脆弱そうな身体が、彼女のすべてが好きだった。

今頃気づいても遅いのに。両目を失って、ぐるぐると顔に包帯を巻いた君。

その姿がより完璧に近づいたように見えたのは、君の妄想が森の果てで

完成されたからだろうか。

 夜を過ぎても、彼女がいなくなったことに、誰も興味を示さなかった。

もともと友人の少ない彼女ではあったが、基本的に町の人々は他人に

不干渉である。

 彼女を探さなければ。

 きっと、彼女は森の中だ。

(本文より)


こちらは初版本となっております。

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