傷つくことだけ上手になって

誠に勝手ながら20日(金)は店休日とさせていただきます。

ご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ありません。

何卒よろしくお願いいたします。



今日のおすすめ本。

2015年11月18日はこちらです。


『いつも 心に太陽を』

つかこうへい著 角川文庫刊


 「まっ、見るだけ写真見てよ。よりどりみどり、数は揃えたからね、

ホラホラ」

 善太郎おじさんは、まるで見合いをするかのようなはしゃぎようで、

傍らの、医者が治療器具を入れるような大きい黒いカバンから、

見合い写真の束をわしづかみに出した。その束にいとおしそうに頬ずりし、

 「さっ、誰だ、玉の輿に乗る娘さんは」

 と目を細める。そして、大判の見合い写真の束をトランプの要領で

シャカシャカと慣れた手つきでシャッフルし、扇形に広げてニッコリと笑った。

それからおもむろに、一枚抜くようにボクを促した。ボクはおじさんが

夜せんべいぶとんに入り、見合い写真をならべてほくそ笑んでいる様子を

思い浮かべた。なんだか妙に心温まる、不潔な姿だ。

 「こんなにいっぱい写真があったって、ものになりそうなのは四つ五つ

なんだよ、やりあってみたいと思うのは。そして、つのかくしにつのが

おとなしく隠れる娘さんはその中でまた一つ二つだ。気合い入れて引いてよ。

さっ、幸せをひっぱり込みなさい」

(「お見合い写真」本文より)


 オレは旅館の浴衣姿のまま、湿った布団の上にあぐらをかき、シゲ子が駅の

売店で買い求めてきたありったけの朝刊をひろげ、「マコト カエレ チチ」

だの、「フミコ タカシ スベテユルス」など、カタカナのゴチック体で

あるがゆえに、その呼びかけの切実さを思わせる尋ね人の欄を目で追うのが

日課になっていた。が、オレたちの名前は登場する気配さえない。

 その気になれば心中などいつだってできる。かりにもオレたちはかけおちを

してきているのだ。

 もう世をしのんで十日目である。人間がまんにも限度がある。たとえトイレに

行ったときでも気をぬかず、外にいる方が「山」と言って、中にいる者が

「川」と受けてから部屋に入るという約束も、「かけおち」七日目あたりから

自然消滅していた。

 「勝手にかけおちしといて、こんなこと言えた義理じゃないが、みんな、

もうちょっと利かせてくれてもいいのにね」

 「あたしたちが死なないとでも思っているのかしら。ずいぶんなめられたもんね」

 まだ足取りをつかまれないことを喜ぶべきなのに、笑顔とはうらはら、

シゲ子の声も、どことなくわびしさを増していた。

(「かけおち」本文より)


こちらは初版本となっております。

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貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。



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