東京飄然

今日のおすすめ本。

2015年11月9日はこちらです。


夫婦茶碗

町田康著 新潮社刊


 餃子といってもただの餃子ではない。店の入り口のところにプロパンガスの

ボンベを設置し、鉄板に餃子を並べライブで焼く。お客様に焼き立ての熱々を

召し上がっていただこうという寸法である。そして、特筆すべきは、この餃子

そのもので、海老入りの餃子、花の形をした餃子、金魚の形をした餃子、

桃の形をした餃子といった、ファンシー、変わり型の餃子なのである。

だから最初は、物珍しさも手伝って結構熟れた。焼いても焼いても追いつかぬ

くらいに売れたのである。ところが三日目あたりからだんだん売れなくなり、

四日目に、黒縁眼鏡をかけた学生のような男が海老入りを一個買ったのを

最後に、五日目以降は、まったくひとつも売れぬのである。もちろん、

自分は時間給で雇われているのであり、餃子が売れようが売れまいが、

経済的には無関係なのだけれども、売れていた頃は楽しかった。どらぁ。

俺は餃子を焼くのだ。おら、買え、買え、と、がんがん餃子を焼き、

がんがん餃子を焼き、がんがん売る。テンポ、グルーヴ、躍動感、キテル感、

いわば活気、精神の盛り上がりがあったのである。ところが、売れない

餃子屋ほど惨じめなものはない。店の入口と駐輪場の間のやや傾斜した

漠然とした一角にしょんぼり佇み、鉄板にちまちま餃子を並べ、蓋をする。

暫くすると餃子が焼ける。焼けたら透明のプラスチックケースに入れ、

輪ゴムで蓋を閉めて台の隅に並べる。後はひたすら立ち尽くすばかりである。

みっともない白衣を着て。曖昧な笑顔で。

(「人間の屑」本文より)


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