暮らしと魚

今日のおすすめ本。

2015年11月10日はこちらです。



 
『魚料理のサイエンス』

成瀬宇平著 新潮選書刊


 蛸は茹でるとその皮は赤く変る。もともと赤いものと誤解されているらしく、

子供に蛸の絵をかかせると赤い蛸になる。子供にとっては茹で蛸でしか見たことが

ないのかもしれない。蛸は生きている時には、体表に三種類の色素胞をもっていて、

足や頭が収縮したり、休息したり、活動している時や興奮したい時など、それぞれの

状態で体表の色が変る。活動時は茶褐色、興奮時は暗赤色に変る。海中で生活している

時には、ふつういぶし銀色をしているが、生息場所によっても色は違うし、刺激に

よっても興奮して赤くなる。いろいろな色に変るので、「七変化のおじさん」の愛称も

ついている。

 蛸を茹でると表皮が赤くなるのは、表皮の色素胞に存在するオンモクロームという

色素の変化による。この色素はメラニン色素に似ているが、黒褐色のメラニンとは

化学構造や性質は違う。蛸を熱湯に入れると、色素胞からオンモクロームが表出する。

これによってアルカリ性の茹で汁(茹で汁には食塩を加えるので、ややアルカリ性

傾いた煮汁となる)と反応して表皮の色が小豆色になる。

 この小豆色に変色した色素は蛸の筋肉中のタンパク質と結合し、安定している。

(「蛸」本文より)


単行本版は現在絶版となっております。

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日々のおすすめ本から、

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