セバスチャン

かれこれ20年ほど前でしょうか。

ふとしたきっかけでこの作品と出会い、

その世界に耽溺しておりました。


語りたいこともいろいろとあるのですが、

それはまた別の話。

いずれ日をあらためてということで。


文学賞受賞女流作家特集第三弾。

今日のおすすめ本。

2015年1月18日はこちらです。


ナチュラル・ウーマン』

松浦理英子著 河出文庫


「あなたは小さい頃、気に入らない大人に抱き上げられるともの凄く怒って

泣き喚いた口でしょ。」

 答えそこねたのは花世の読みが図星だったからではない。髪を撫でる

花世の手が余りに優しく心地よくて陶然としてしまったからだ。

撫で方が特別なわけではない。ただ、花世の手と手の動きに不快な要素、

不自然な要素が全くなく、完璧に私に馴染むのである。驚かずにいられなかった。

他の者に同じことをされてもそんな風に感じはしない。かつてない甘い感動に

不意討ちされ、眠りから覚まされたような気分だった。

 自信ありげに私から眼を放さなかった花世は、私の表情の変化もしっかりと

見ていたはずだ。彼女は手を止めなかった。私が彼女に触れられて官能的な楽しみを

覚えているのを嫌がらなかった。あの時、花世と私の間には暗黒の了解が

できたのだと思う。私たちが本格的に仲よくなり花世が恋人よりも私を優遇するように

なったのも、あの日からなのだから。

(中略)

「好きだって言ってあげようか?」

「別にかまわない。」

 屈辱に口元が歪んだ。花世の手から頬を離そうとしたら、耳の近くの髪が

掴まれ手荒く引き戻された。青ざめた顔で笑いながら花世はことばを吐いた。

「憶えておいて。殺しても飽き足りないくらい好きよ。わかった?」

(本文より)


こちらは旧装版で表紙ちがいとなっております。

信販売もさせていただきますので、

お気軽にお問い合わせくださいませ。

69fabulous@gmail.com


日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。