今日のおすすめ本。
2014年12月13日はこちらです。
『氷河民族』
山田正紀著 ハヤカワ文庫刊
「私なら、ここにいましてよ」
ふいに声がかかった。振り返った私の眼に、開かれた「支配人室」の
ドアと、一人の女、それに二匹の犬が映った。
女と二匹の犬とは、いずれも見るからに剣呑そうである、という点で
共通していた。
女は髪を腰までたらしていた。
ぬめるような浅黒い肌、赤くふくらんだ受け口の唇、なにより男を
射るようなその切れ長の眸──スラリとした体に、クリーム色の
サリーのような長衣をまとっている。(中略)
それでは犬はどうかと言うと、こちらはちらとも見たくないような
獰猛な顔つきをしていた。
ナチスの愛玩犬、天性の殺し屋、豹にさえ喰らいついていこうという、
あのドーベルマンなのだった。そいつが二匹、牙をむき、よだれを
たらしながら、私に向かってうなり声をあげている。女が一声命じるだけで、
私の体は挽き肉のようにひき裂かれてしまうだろう。
「きみが支配人か」女の美しさに圧倒されたのか、ドーベルマンの牙に
圧倒されたのか自分でも判然としなかったが、わたしの声はだらしなく
しわがれていた。
(本文より)
こちらは現在絶版となっております。
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