もう一つの青春

今日のおすすめ本。

2016年9月6日はこちらです。



『荒れた海辺』

ジャン=ルネ・ユグナン著 荒木亨訳 筑摩書房


 彼らに追いついてどうなるというのか。誰が彼を待っていよう。彼は一人だった。

他の連中がいたり、その叫びや質問が、時に彼の孤独を紛らせ、その孤独と彼との間に

一種の障壁を置くことがあるばかりで、その壁の透明と非実在を彼はこの瞬間に感じた。

一つの苦痛に似た力が彼を横切り、ゆっくりと彼は身体を一回転させた。凸凹の

黒ずんだ岩の群れ、遠くの燈台、水にひたった荒地、羊、岩の群れ。たった一瞥で

全地をあまねく一周したように彼には思われ、「誰もいやしない」と彼はつぶやいた。

 一匹の黒い犬が、鼻面を地面にすれすれに、荒地の中の匂いをたどってやって来た。

それは祈っている修道僧のような形のぽつんと離れた岩の蔭にしばらく姿を隠した。

オリヴィエがふり向くと、一条の陽の光が雲を通して波の上に蒼ざめた光を投げた。

彼は何物にとも知れず飢えを感じ、自分が大きくなったように、自分自身が輝くものに

変わったように感じた。風が血管の中を流れ、心臓の鼓動が自分でも感じられた・・・。

死ぬことは不可能であった。彼は何物も望まず、失うべき何物もなく、自由であった。

 陽の光が消える。

(本文より)


こちらは現在絶版となっております。

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