今日のおすすめ本。
2016年9月3日はこちらです。
『眠れる森の惨劇』
ルース・レンデル著 宇佐川晶子訳 角川文庫刊
カーテンがわきに引かれたように森がわかれた先に、舞台装置のように
煌煌と明かりのついた館が、緑色がかった冷たい人工的な月の光を全身に浴びて
建っていた。それは妙にドラマティックな光景だった。張り出し窓からこぼれる
明かりでちらちらときらめく館は、霧深く暗い森ときわだった対照をなしていた。
ファッサードそのものはところどころ暗いが、四角形や長方形のいくつもの窓には
オレンジ色の明かりが
ともっている。
暗い荒涼たる館を予想していたバーデンにとって、明かりは思いもよらぬ
異物だった。眼前のこの光景は、さながら人里離れた城に澄む「眠れぬ森の美女』の
映画のオープニング・シーンだった。ホルンやドラムの低い不吉なメロディが
流れてきたら、さぞ似合ったことだろう。静寂は肝心ななにかが欠けているような、
なにかがとんでもなくまちがっているような気分をかきたてた。明かりが消えないと、
さっかくの効果音も無駄になる。道路が次のカーブにさしかかると、またしても
森が迫ってきた。バーデンは焦燥にかられた。外へ飛びだして館めざして走り、
最悪の状況を自分の目で確かめたい気持ちをおさえて、いらいらとすわっていた。
(本文より)
こちらは初版本で現在絶版となっております。
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