調停者の鉤爪

今日のおすすめ本。

2016年8月21日はこちらです。



 
『デス博士の島その他の物語』

ジーン・ウルフ著 浅倉久志伊藤典夫柳下毅一郎


 都市の縮小のことを考えてもべつに悲しくならないことに、彼は気づいた。

ある一時期、人口がふえすぎたことは、だれもが知っている。しかし、子孫を通じて

永遠の生命を手にしたいという衝動は、もはや存在しない。現実に永遠の生命が

手にはいったからだ。何百年間も、カトリックの僧侶や尼僧が子孫を残すことを

考えなかった理由は、ひょっとするとそこにあるのだろうか—人間の霊魂が死後も

不滅であることを信じ、すでに永遠の生命を自覚していたのではないだろうか。

これからは森林がふたたび蘇り、繁茂するだろう。鹿や、狼や、熊や、狐も、

いまからはもっとたくさんの仔を産めるだろう。

(中略)

 美術や文学や科学はどうなっていくのか?ひょっとすると(自分はそうは

考えないが)それもやはり永遠の生命を獲得しようという試みかもしれない。

もしそうなら、それはもはやなくなったか、それとも終わりなき先送りのなかに

溺れてしまったのか。もはや“大いなる遺産”はなく、もはやどんな種類の

偉大な作品もないのか?アルヴァードはそれも信じなかったし、これから

信じる気もなかった。

(「死の島の博士」本文より)


こちらは初版本となっております。

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日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。