ぼくのミステリな日常

誠に勝手ながら26日(日)〜29日(水)は店休日とさせていただきます。

30日(木)は営業いたします。

ご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ありません。

何卒よろしくお願いいたします。


ここ数日、久々に晴れの日が続いてますね。

しかも暖かい。

この陽気はもう初夏ですよ、初夏。

踊り出したくなります。



今日のおすすめ本。

2015年4月20日はこちらです。


『心のなかの冷たい何か』

若竹七海著 東京創元社


「あたし、あなたから電話がくるんじゃないかって、ずっと待ってたのよ。本当よ。

今日電話したって、忘れられてるんじゃないかって、ずっと心配だった。変なのよね。

普通に、飾ることのないように話すことのできたのは、あなたが初めてよ」

 わたしは相手に聞こえないように受話器の口を覆ってあくびをした。

「・・・・・・忘れるはずないじゃない。あなたみたいにすっとんきょうなひと、

ほかに知らないもの」

「言ってくれる。あのさ、覚えていてほしいんだけど」

妙子は、こもったような、寒気のするほどの声に戻った。

「会社にね、観察者がいるのよ」

「・・・・・・なにがいるんですって?」

「観察者。観察者、実行者、支配者、あはは」

(中略)

「わかった?ならいい。忘れないでね。観察者、実行者、支配者」

 電話は切れた。漫画を読む気力はもうとうの昔になくなっていた。わたしは、

明かりを消し、すっかり冷え切ってしまった足の先をこすりあわせながら

眠りについた。

(中略)

「はい」

 十二回目のコールのあと、誰かが電話をとった。

「一ノ瀬さんの御宅でしょうか」

「はい」

「妙子さんは御在宅でしょうか」

 わたしはいぶかしく思いながら話し始めた。妙子はひとりぐらしだといっていた

はずだ。電話の向こうの返事は暗い、はっきりしない女性の声だった。はいという

一言に、警戒と年齢がにじんで聞こえた。

「妙子のお友達ですか」

「・・・・・・そうですが」

「妙子はいません」

「まだ、会社ですか」

「病院」

(中略)
 
 相手の歯ぎしりの音が、受話器の穴のなかから背筋が寒くなるほどの強さで

伝わってきた。わたしは、電話を切ろうと思った。なにも聞かずに、全部、

妙子のことを忘れようと思った。儀礼的な言葉を早く口に出すんだ。なんでも

いいから。そして電話を切るんだ。

 不意に歯ぎしりがやんだ。

(中略)

「嘘」

 電話の声は含み笑いをもらした。

「え?」

「妙子に、友人はいない」

「どういうことですか」

「あれに、友人などいるはずがない」

 電話は、切れた。

(本文より)


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日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。


The Birthday NEW SINGLE『I KNOW』『MOTHER』

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