復活!!!
今日のおすすめ本。
2017年10月30日はこちらです。
『トラッシュ』
山田詠美著 文春文庫刊
夏は暑かった。そう、夏はいつも暑いそれは大昔から決まっている事実なのだ。
けれど、その事実には色々な種類がある。心を灼く恋の前ぶれを確信するような
もの。それを感じた時などは、なにかを殺してしまいたくなる程だ。次に何かが
手に入る。それを知っているために、手なずけることが出来るような暑さもある。
暑いというひとつの言葉さえ、こんなにもさまざまな種類がある。それには色も
付いているだろう。匂いも立てているだろう。甘い味も苦い味も、ひとつの
言葉で言い表すことが出来てしまうということだ。それは、一体、
何故なのだろうと彼女は考える。ああ、そうよ、これはこういうことだわ。
世の中のすべてを、人間という不確かなものたちが表しているからなのだ。
絶対的なものなんて、ない。何故なら、とるに足りない雑多なことで悩み、
喜劇、悲劇を巻き起こす者たちが、起こり得る事柄を表記する、そういう世界が、
すべてだからだ。
今のところ、何もかもが人間によって握られている。このことを思うと、
彼女は笑い出したくなる。
(中略)
ブラインドから日ざしが漏れる。影は静かに歩いて行く。彼女はぼんやりと
それを見詰めている。自分の睫毛の作る日陰は、すこしも涼しくない、
と彼女は思う。何故なら、始終、涙が滲むからだ。涙はただの水ではない。
それは、色々な内容を持つ。暑いという言葉がそうであるように。
(本文より)
こちらは現在絶版となっております。
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