身体の臨界点

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年8月22日はこちらです。


『アジア、旅と身体のコスモス』
石井達朗著 青弓社


 小山のなかにひっそりとたたずむ墓にしばらくみとれていると、

遠くに足の不自由な青年が忽然と現れた、まるで天から降って湧いたようだ。

まったくひとけのない野原を、わたしのいる林のほうに向かって片足を

ひきずるようにしてやってくる。青年の姿は、この島の自然の静寂のなかに

すっかり溶けこんでいる。わたしは、こちらにやってくる青年をぼんやりみていた。

青年はこざっぱりとした質素な格好で、日本の中学生が使うような形の

厚い布地のカバンをたすきがけにしている。青年は遠くでわたしを認めたようで、

わたしをじっとみつめたまま、以前とおなじペースでこちらに近づいてくる。

 大きく盛り土した緑の墓のそばに立つわたしのほうに、布カバンをかけ

足をひきずって畑道をてくてく歩いてくる青年の姿は、幻影のようでもある。

青年は、わたしの目の前で立ちどまると、なにやら声を出した。喉の奥から

うなるような音が不規則にでてくる。青年は聾唖者であった。

(「ムーダンの国 朝鮮半島南の島々からソウルへ」本文より)


こちらは初版本で現在絶版となっております。

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日々のおすすめ本から、

お気にいりの一冊が見つかりますように。

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