短篇小説講義

今日のおすすめ本。

2016年9月20日はこちらです。


『着想の技術』

筒井康隆著 新潮社刊


 虚構の中ではどのような事件も起り得るからというので、虚構からの模倣であれ、

犯人の独創であれ、また偶然であれ、疑似虚構化した現実までが、心理、動機、手段、

トリック、社会的背景なども含めて考え得る限りの事件を発生させはじめたとすれば、

虚構内で起る事件の独自性とはいったいどのようなものになるのだろうか。

超自然現象や天変地異にしてもいつ現実によって真似られるかわからぬ可能性を

持っていることは、奇妙な事件が現実に起るたび、われわれSF作家の間で囁かれる

「誰それの作品の盗作だ」という冗談によって証明される。そもそもそれ以前に、

虚構によって描かれた超自然現象や天変地異は規模こそ異なるもののその殆どが

現実に起ったことや起ったのではないかと噂されていることに端を発している

場合が多い。こう考えてみると虚構内における事件の規模を大きくするか、

事件の数を多くするかという、せいぜい数量的な優位によって現実を超えようと

試みることぐらいしか残されていないのである。そしてそのどちらも、

もはや虚構の世界ではさんざ使い古され、エスカレートにエスカレートを重ねて

しまっている。大規模なパニックはスペクタクルの表現力ではるかに小説を超す筈の

映画で見てさえ感動を覚えず、結局そうしたパニック映画の中でもしわれわれが

感動するところがあったとすれば、特にパニック映画にしなくても表現可能な

例えば主人公たちの人間ドラマといったものであるに過ぎないのだ。

(「虚構と現実」本文より)


こちらは初版本で現在絶版となっております。

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