今日のおすすめ本。
2016年7月19日はこちらです。
『金庫と老婆』
パトリック・クェンティン著 稲葉由紀・他訳 ハヤカワ・ミステリ刊
まつたくの話、マーマレードはヒルダ叔母さんのことが頭にこびりついて
離れなかつた。彼女に対する敵意は刻一刻とつのる一方だつた。彼は、
鉛筆でスケッチをすることと韻律のでたらめな狂詩とスケッチでブラニイを
抱腹絶倒させた。うわべでは、ヒルダ叔母さんにたいして蜜のように甘い
態度をしめしていながら、ひとたび陰にまわると、あどけない天使は怪物に
早変わりするのだつた。彼はヒルダ叔母さんのためにかぞえきれないほどの
仇名を考えだした。そのなかでも、「ゴキブリ」、「鬼ばばあ」、
「めすのゴリラ」などというのは、まだ品のよいほうだった。
たしかに、他人の心のなかの憎悪を助長する憎悪ほど恐ろしいものはない。
いまのブラニイとマーマレードは、おたがいに相手を煽動しあいながら、
二人の気持を熱狂的な憎悪へと駆りたてているのだつた。こうして、
自分とおなじ年令の少年と新たに同盟をむすんで、うらみかさなる大敵に
反抗しているうちに、ブラニイはいつしか、母親の暖い愛情に対する
飢えを忘れていた。
(「姿を消した少年」本文より)
こちらは現在絶版となっております。
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