夢なきものの掟

今日のおすすめ本。

2016年7月17日はこちらです。


『黄土の奔流』

生島治郎著 講談社文庫刊


 浴室を出ると、部屋に備えつきのラウンド・テーブルの上に葉村が

ボストンバッグの中身を並べているところだった。オイルと鉄の臭いが、

真吾の身体にかすかな緊張を伝える。彼はその緊張を押えつけるように、

わざとゆっくりとテーブルに近づいた。

 テーブルの上には、大小の拳銃が四丁並べてあった。

(中略)

「こいつはモーゼルのミリタリー・モデルだな」

「そうです。よくご存じですな」

 葉村は冷笑を浮かべながらからかうように片方の眉を上げ、大げさに

驚いてみせた。

「口径が七・六三ミリで、気の利いた土肥の使用しているのはほとんど

これですよ。もっとも、近ごろは中国製の模造品も出まわりはじめたという

噂ですが、こいつは正真正銘のドイツ製です。破壊力がすばらしいし、

軍用自動拳銃としては最高でしょうね。ぼくなら、こいつはぜひ五、六丁

持ってゆくな」

「そうしよう。しかし携帯用としては少し大げさすぎる。他にも小型の

拳銃を用意しなければならないだろう」

「携帯用ならこいつがいいんじゃないかな」

 葉村はテーブルの上からモーゼルよりずっとスマートな拳銃をとりあげた。

「ブローニングだな」

「そうです。ブローニングの最新型ですよ。一九一〇年型よりも銃身が少し

長くなっているでしょう」

 真吾の年季のはいった拳銃の扱い方を見て、これはからかう相手ではないと

見直したのか前よりはずっとていないな口調で葉村は説明した。

「ごらんなさい。だからバランスをとる関係で銃把もだいぶ長くなっているが、

扱いやすさは抜群だし、携帯にももってこいだ」

「よかろう。とにかく、この拳銃を全部試射場へ持っていって、連中に

使いやすいやつを選ばせるんだな。ところで、拳銃の他にどんな武器が

揃いそうだね」

「そうですね。軍用ライフルなら、いつでも揃いますがね。

サブ・マシン・ガンをなんとか手に入れようとして、今苦心している

ところです。弾倉と両方揃えようと思うと、値が張るんですよ。

それから手榴弾を三ダースばかり買っておきました」

(本文より)


こちらは初版本で現在絶版となっております。

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