積木の塔

今日のおすすめ本。

2015年12月5日はこちらです。


『黒いトランク』

鮎川哲也著 角川文庫刊


 列車が二島駅のフォームに停ると、鬼貫は五、六名の降車客のあとに

つづいて下車した。地味なうす茶色のオーバーに小さな鞄をかかえたきりの、

軽装である。

 改札口をぬけてから、近松が屍体を発送したという駅を、いかにも

感慨ぶかそうに見まわした。ついでポケットから一通の封書をとりだして、

便箋にかかれた略図を頭のなかにたたきこんだ。

 駅の正面には切通しの一本道がつづき、略図によればその上をどこまでも

歩いていけばよいのである。鬼貫はぐっとあごをひいて、肩を一つゆすって

前進をはじめた。

(中略)

 彼は運河に視線をあずけたまま、自分が近松と一人の女性を争って見事に

敗れ、悄然として満州に去ったことや、近松がほこらし気に彼女をいだいて

北京の商社に赴任していったことなどを思い出してみた。そしていま、

十年前に己れを拒否した女性の苦境を救おうとして、一途に運河のほとりを急ぐ

自分をかえりみると、そのお人好し加減に我ながらあいそもつきるのであった。

(中略)

 近松としるされた標札をみたとき、鬼貫は、やはり冷静たり得なかった。

四十になろうとしていながら、青年時代のように胸がはずむのである。

 思い切って商家ふうの扉を横におしあけると、小暗い奥にむかって声をかけた。

はいと応じる声がして、小走りにでてきた由美子は、そこに立っている鬼貫を

みると顔をゆがめ、泣き笑いの表情をうかべて立ちつくした。

 「やあ」

 と鬼貫はつとめて無感動な調子で言った。

 「やって来ましたよ」

(本文より)


こちらは角川文庫版は現在絶版となっております。

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