DOOR

今日のおすすめ本。

2015年10月26日はこちらです。


『失踪』

ビル・プロンジーニ著 高見浩訳

 最初にーただひとつ—目に入ったのは、彼女の瞳だった。

 大きくて優しい、鮮やかな緑色の瞳。生き生きとして暖かい、それでいて、

きびしいお仕置きを受けた子供が“お願い、もう勘弁して”と訴えるような悲しみを、

まぎれもなくたたえている瞳。その深みには、感受性の豊かな魂が息づいていた。

悲しみと歓びと熱い官能の翳が見え隠れしていた。私の心の隅で、叱りつける

声があった—いったいどうしたというのだおまえは。そんなにいろいろなことが

見えるはずはないではないか。けれども見えたのである。そのすべてを見、

解釈しえたのである。

(中略)

 しばらくは身じろぎもせずに、二人は向い合っていた。そのうち、喉の奥で、

低い無意味な音をたてたと思うと、彼女は扉の端に片手をかけた。私を

しめだそうとするような仕草だった。なにか言わなければ、と思うのだが、

うまい言葉が浮かばない。彼女の顔以外の部分に視線を移してみたが、やはり

私を魅了するに十分だった。ほっそりとした小さな手、秋の紅葉を思わせる

赤みがかった黄金色のしなやかなロング・ヘア。化粧はしていなかった。

整地な彫刻のように均整のとれた、妖精めいた目鼻だちを、どうしてそれ以上

飾りたてる必要があろう。歳は二十七にも見えたし、三十二にも見えたー

それは、いまの私にはどうでもいいことだった。両肩に細い肩章のような藤色の

バンドのついた白いセーターと、薄紫色のスカートに包まれたその軀は、優しい、

まろやかな曲線をいくつも描いていた。

「なにかご用?」わずかにうわずっている声。

 私は急に、全身がこわばるのを覚えた。自分の両手が、やけにばかでかく、

妙にひきつって見える。それをコートのポケットに突っこんで、たずねた。

「あの・・・あなたはチュリル・ロズモンドさん?」

(本文より)


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