今日のおすすめ本。
2015年1月24日はこちらです。
『影が行く』
P・K・ディック、D・R・クーンツ他著 中村融訳 創元SF文庫刊
コナントほど緊張して見まもっている者はいなかった。滅菌した小さな
ガラスの試験管になかばまで満たされた麦わら色の液体。一滴──二滴──
三滴──四滴──五滴と、カッパー医師が、コナントの腕から採血して分離した
透明な液体をしたたらせた。試験管は慎重にふられたから、透明な温水の
ビーカーに漬けられた。温度計が血液の温度を読み、小型の恒温器がカチカチと
うるさく音をたて、電熱器が輝きはじめるのと、明かりがチラチラしはじめるのが
同時だった。やがて──小さな白い沈殿物ができはじめ、麦わら色の透明溶液の
底へ降りつもった。
(中略)
カッパー医師は試験管をふっていた。マクレディが最初に気がついた。
医師は寝棚の端にすわり、沈殿物で白濁した麦わら色の液体のはいった試験管を
二本手にしていた。試験管のなかの物質より白い顔をして、恐怖に見開かれた
目から無言で涙を流していた。
マクレディは、冷たい恐怖のナイフが心臓を刺しつらぬき、胸のなかで
凍りつくのを感じた。カッパー医師が顔をあげ、
「ギャリー」としわがれ声をはりあげた。「ギャリー、頼む、ちょっときてくれ」
ギャリー隊長はきびきびと医師のほうに歩みよった。管理棟が水を打ったように
静まりかえった。コナントが顔をあげ、寝棚からぎこちなく立ちあがった。
「ギャリー──怪物の組織にも──沈殿が生じた。これでは証明にならない。
わかるのは──犬が怪物に対しても免疫だということだけだ。つまり血を提供した
ふたりのうちひとり──われわれのどちらか、きみとわたしのどちらかが、
ギャリー、怪物なんだよ」
(「影が行く」本文より)
ホラーSFの傑作13編を収録した短編集。
上に引用した表題作「影が行く」はこの映画の原作です。
『遊星からの物体X』 ジョン・カーペンター監督 1982年
凄まじいビジュアルイメージ。
クラクラしますね。
とても30年以上前の作品とは思えません。
こちらはカバーちがいとなっております。
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貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。