夜はやさし

今日のおすすめ本。

2014年11月9日はこちらです。


『若者はみな悲しい』

フィッツジェラルド著 小高高義訳 光文社古典新訳文庫


「じゃあ、ボートの操縦できる? サーフボードに乗りたいのよ。引っ張ってくれたら

うれしいんだけど。わたしジュディ・ジョーンズ」と、にんまり笑ってくれるのだが、

いくら口をねじ曲げても美人の顔にしかならないのだから、これで「にんまり」なのか

どうか、理屈に合わない顔である。「あっちの島に住んでるんだけど、うっかり帰ると

待ってる男がいたりするのよね。車で表に乗りつけるから、私は船で逃げてきたの。

だって君は理想の人だなんて言うやつだもの」(中略)

 沖へ出てから振り返ると、うしろから膝をついたジュディの重みで、サーフボードが

上を向いていた。

「もっと速く、すっ飛ばして」

 言われるまま、レバーを前倒しにする。舳先に白い波が盛り上がった。もう一度

振り返ると、疾走するサーフボードに立ち上がった女が、大きく腕を広げて、目を

月に向けていた。

「風が冷ーたい」と、声を張り上げて、「ねえ、名前は?」

 これに答える。

「じゃあ、あすの晩、ディナーに来ない?」

 デクスターの心臓は、モーターボートの弾み車のように回った。この女の気まぐれで

人生の方向を変えられるのは、これが二度目のことだった。

(「冬の夢」本文より)


こちらは初版本となっております。

信販売もさせていただきますので、

お気軽にお問い合わせくださいませ。


日々の“おすすめ本”から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。