胡桃の中の世界

今日のおすすめ本。

2014年9月21日はこちらです。


『西洋学事始』

樺山紘一著 中公文庫刊


 ヨーロッパに古くからある博物館に関心のあるものであれば、だれもその

収蔵物の膨大さにおどろいていることであろう。名高い発掘物や名画をもたない

博物館でも、古書籍や古什器、動植鉱物の標本、切手、貨幣から空箱にいたるまで、

ほとんど雑然とならべられているものだ。(中略)

 しかし、そうして熱狂的にコレクションされた収蔵物に接して、なにがしかの

感動がさそわれないだろうか。ほとんど偏執狂に属するようなひたむきさに。

どこでも、収集者には、一種、秘教的なところがある。みだりに他人に

公開しないもの。ひとりひそかに深更のいっとき、抽出しにおさめられた

収集品をもちだしては、あやしい微笑でいじりまわしてみる。昼間は、世俗世界で

多忙な生活をいとなむ実業家であったりする収集者は、その深夜の時間に

神聖な価値をみとめているのであろうか。その収蔵品は、格別に神秘的でも、

人目をはばかるものでもない。ごくふつうの切手であったり、パイプであったり、

羽根ペンであったりするのに。

(本文より)


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