今日のおすすめ本。
2014年9月17日はこちらです。
彼自身がそこまで降ってゆけないような深いところで、愛が彼の中にどかっと
根をおろしてしまっていた。フランソワ・ド・セリューズは、他の多くのごく
若い青年と同じで、もっともはげしい感覚、したがってもっとも粗野な感覚しか
感じないようにできていた。こういう愛の誕生より、悪い感情のほうが、彼を
別なふうにつよく刺激したにちがいない。
私たちが自分を危険だと感じるのは、一つの病疾がわれわれの内にはいろうと
しているときである。そういう病疾がいったん根をおろしてしまうと、私たちは
それと仲よく暮すこと、そういう病気の存在に無意識でいることさえできる。
フランソワはもうこれ以上自己をいつわることも、湧きあがってくる騒音に
耳をふさいでいることもできなかった。彼は自分がドルジェル夫人を愛しているか
どうかも、またどういう点で彼女の罪をとがめだてできるのかもわからなかった。
が、たしかに責任のあるのは彼女であって、他の何人でもないのだった。
(本文より)
こちらは旧装版で表紙ちがいとなっております。
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