アムステルダムの犬

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年11月21日はこちらです。


プラネタリウムのふたご』

いしいしんじ著 講談社文庫刊


 星月夜。

 八月の新月の夜、天頂にはベガ、デネブ、アルタイルの大三角。

東にはペガスス座。西の空にはうしかい座。正面にはおなじみのポラリス

これら慣れ親しんだ星々をつっきって、銀色の粉をふりまいたような

鈍いかがやきをはなち、天の川が、タットルの頭上、北から南の空へ

えんえんとのびていた。

 タットルは感情を忘れた。ただひたすら目をひらき、頭上にひろがる

まっくろくおおきな星空に、小柄なそのからだのすべてを委ねた。

頭上の星月夜と、プラネタリウムに映し出された夜空。一見おなじような

ふたつの空は、タットルの目に、まったくかけはなれたものに見えていた。

 星々のあいだにくろぐろとひろがる闇。ただ一様に暗いのではない。

ほんとうの闇は手でさわれそうなほどたしかで、それでいて、

はてがなかった。もっともちいさな星のむこうにさえ、闇の無限の奥行きが

まちがいなく感じられた。巨大な闇は星月夜にちらばる光を縦横につなぎ、

目に見えない星くずをひとつひとつつなぎ、そしてタットル自身をさえ、

無限のさらに先へとつないでいた。

 タットルにはわかった。自分は山のむこうにいけない。いや、いかない。

自分は山のむこうへはこのほんものの夜空はぼくを見つめ、たちはだかり、

もどれ、村へもどれとささやきかけてくる。ぼくはこの山を越せない。

まっくろくておおきなものが、それをけして許さない。

 タトルは見つめかえす。

 おとめ座りゅう座、はくちょうにとかげ、ケフェウス座の上には

赤いガーネットスター。アンドロメダときりん座にはさまれている、

ぼんやりとした二重星団。

 そして、それらの星々をはらみ、自分の足元からこの世のはてへと

広がっている、底のしれないほんとうの闇。

(本文より)


こちらは初版本で現在絶版となっております。

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