俗物図鑑

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年10月28日はこちらです。


『48億の妄想』

筒井康隆著 文春文庫刊


「わたしに、どうしろというんだ」外相のその声は、およそ大臣らしくない、

哀れっぽくか細いものだった。

「道化をやるのだ」と、隅の江がいった。

(中略)

「あなたにさからうようで悪いが・・・」外相が気弱げに口をはさんだ。

「それだって結局、大衆の期待を裏ぎることになるのじゃないかね?」

「まだわからんのか。あなたは救い難い阿呆だ」隅の江は豚を見る眼で

外相を見た。「大衆はなにも、喧嘩だけを期待しているんじゃない。

要するに大詰の見せ場を期待しているだけだ。だから活劇のかわりに、    

喜劇をあたえてやればいいんだ。喜劇というものは大きなどんでん返しの

ある方が効果的だ。あなたの男らしいイメージは別のものにガラリと変わり、

あれよあれよという間にとてつもないシチュエーション・コメディ

テレビの画面に展開される。大衆は腹をかかえて笑いころげるだろう。

笑いながら彼らはいう − 何てえ馬鹿な大臣だこんな奴はやめさせてしまえ

そうだそうだやめろやめろ − だが彼らは、自分たちを楽しませてくれた

マス・メディアに対してはそれで満足し、感激するんだ」

「わしはどうなる」外相はおろおろ声で、デスクの上に視線をさまよわせた。

「わしは外務大臣をやめなきゃならなくなる。いや、それはかまわん。

もう大臣はいやだ。やめたい。以前から辞任したかった。しかし恐らく

それだけではすむまい。外務省からも放り出される。政治的生命もおわりだ」

「当然だ」隅の江は平然としていった。

(本文より)


こちらは現在絶版となっております。

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