今日のおすすめ本。
2016年9月28日はこちらです。
『男(プロ)の墓標』
大藪春彦著 角川文庫刊
「大人しく武器を捨てて出てこい!もう少しすると自衛隊の特車が駆けつける」
長らく沈黙していた警察側のスピーカーが吠えたてた。
「ロケット砲でも射ちこもうってのか?馬鹿な真似はよせよ。コケおどしは
聞きあきた。こっちには人質がとってあるんだからな。それもとりわけ別嬪さんの
人質だぜ」
江口が窓から顔をつきだして大声で嘲った。
広場のはずれのビルの蔭から、ヘルメットをかぶった警官がそっと半身を現し、
カービン銃の狙いを江口につけた。距離は五十メーターを越えていた。
藤倉はルーガーを構えた。拳銃の照星を照門より高く狙いをつけ、慎重に引金を
絞っていった。鋭い発射音と共に、ルーガーはガクウンとそり返った。青紫の閃光が
ほとばしり、遊底からはじきだされた空薬莢が薄い煙を吐いて舞い上がった。
カービンを構えた警官の額にポツンと小さな穴があいた。その顔は一瞬物凄い
衝撃に歪み、続いて巨大なハンマーにひっぱたかれたかのようにのけぞった。
肩からカービン銃が滑り落ち、アスファルトに当たって乾いた音をたててはねた。
藤倉は素早く窓の敷居の蔭に身をかくした。銃声は木霊となってはねかえりながら
街角に消えていった。
奴等は口径九ミリのパラブリューム・ルガーの殺傷力と有効射程を甘く
見すぎていたのだ。藤倉はニヤリと不適に笑った。軍隊は藤倉にいかに巧く銃を
あつかうかを、そして、人名を奪っても良心に呵責を覚えずに済む試練を教えた。
(「今日もこの街で」本文より)
こちらは現在絶版となっております。
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