ドローへの愛

今日のおすすめ本。

2016年2月16日はこちらです。


『あたし、きれい?』

ドーリス・デリエ著 西川賢一訳 集英社


「ぼくはスパゲッティ・ミートボールにコーラ」と言ってデーヴがメニューを

返した。女はうなずき、ウンナのほうをじれったそうに見た。ウンナは

その姿からタマラを思い出し、デーヴに話してあげようと口を開きかかった。

タマラとスピッツにまつわる話を洗いざらいだ。でもはっとわれに返り、

無愛想で行こうとしていたことに気づいた。で、「わたしは何もいりません、

結構よ」と答えた。

 デーヴがびっくりして顔を見つめた。「本気じゃないんだろう」とも言った。

 ウンナはうっすらと笑みを浮かべ、組んだ手をチェックのテーブルクロスに

置いた。ためしに内心「あんたなんか大きらい」と思ってみた。するとまた、

いとしさと苦しさがすこし小さくなった感じ—まるで腫瘍が縮みはじめた

ようだった。

 山盛りのスパゲッティに、ばかでかい灰色のミートボールがごろごろ。

それをデーヴは黙々と呑みこんでいった。ウンナは軽いむかつきを覚えながらも

無表情に傍観していた。食べてみないかというように彼が三回さし出したが、

三回とも小首を振って断った。

「どうしたんだよ」とデーヴが訊いた。

「べつに」ウンナが答えた。「あたし、あんたが嫌いになる訓練をしているの。

好きになりすぎないように」

「なんだって?」

「おねがい、またあたしのこと愛して、ね、また以前のようにあたしのこと

愛してちょうだい」

(中略)

 デーヴはふうっと息をついた。がらんとした店内を見まわし、片手をテーブルに

伸ばして赤いプラスチックグラスのローソクを抜き取り、ウンナのバッグに

押しこんだ。そして「お勘定」と声をはりあげた。

 ウンナには小声でこう言った。「こんなまずいスパゲッティは初めてだった。

知ってて注文しなかったんだろう、いじわる」

 ウンナは涙のたまった目でにっこりした。テーブルクロスの青い格子が

ぼやけ、きらきら光るウルトラマリンの湖に変じた。 

(「尻軽おんな」本文より)


こちらは初版本で現在絶版となっております。

信販売もさせていただきますので、

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日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。



新保勇樹さん、待望の初写真集発!!



『Tenacity Blues Diary -Fragments of Life with The Birthday-』

新保勇樹著 ワニマガジン社


4630円(税抜)

カバー付き上製本

A4正寸横型

超特厚304ページ

3月14日発売予定


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