女たちの遠い夏

誠に勝手ながら27日(金)は店休日とさせていただきます。

ご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ありません。

何卒よろしくお願いいたします。



ここのところずいぶんと暖かい日が続きます。

革ジャンを着てきたらば、十分ほど歩いただけで汗ばむくらい。

だんだんが近づいてきているのですね。

夏。


今日のおすすめ本。

2015年2月25日はこちらです。


充たされざる者

カズオ・イシグロ著 古賀林幸訳


「正直に申しあげましょう、ライダーさま。あなたのご来訪は、あの部屋にとって

初めての、真の試練でした。あの部屋にほんとうにご立派なお客様が泊まられるのは、

四年前に改装して以来、今回が初めてなのです。もちろん、あなたにわがホテルに

お泊まりいただけるなどとは、予想もできませんでした。しかしあの部屋は、

実はわたしがまさにあなたのようなお客さまを頭に描いて、改装したものなのです。

つまり、よろしいですか、あなたがおみえになって、あの部屋はようやく、

本来の意図に沿って利用されているというわけです。そしていま、わたしは

四年前にいくつか重大な判断ミスを犯したことが、はっきりとわかりました。

これだけの経験をもってしても、とてもむずかしいものですな。いいえ、わたしは

断じて満足しておりません。これはよい巡り合わせではございません。

そこで提案させていただきたいのですが、三四三号室にお移りになっては

いかがでしょうか。こちらのほうが、きっとあなたのお人柄にはるかに

ふさわしいと思うのですよ。ずっと静かですし、よくお眠りになれますでしょう。

それにあの部屋は、さよう、一日中時々に考えてきたのですが、おそらくいまの

内装を取り壊すことになるでしょう」

(中略)

「いえ、これはあくまで、わたし自身の心の平穏のためなのです、ライダーさま。

あのホテルは、わたしの生涯をかけた事業です。あの部屋に関しては、ひどい

失敗をしてしまいました。取り壊す意外には考えられません」

(中略)

「はい。そうお考えになっていただけて、たいへんうれしゅうございます。

ライダーさま。あなたがわたしのホテルにお泊まりになって、あれほど

ふさわしくない部屋で我慢なさらなければんならなかったと考えると、

残りのご滞在期間だけでなく、これから何年も、ひどい後悔の念にかられずに

いられなかったでしょう。四年前に自分が何を考えていたのか、まったく

わけが分かりませんよ。完全な誤算です!」

(本文より)


こちらは初版本となっております。

信販売もさせていただきますので、

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日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。