季節のかたみ

今日のおすすめ本。

2014年11月17日はこちらです。


『流れる』

幸田文著 新潮文庫


 酒を出すのだから台所が忙しいかと云えば、ちっとも忙しくない。

酒も酒屋へ買いに行くのではない、いっさいは鮨屋へ云いつければ

済むのである。「お酒二本、なにかお摘み見繕って、お猪口も五ツ揃えて」

と誂える。持って来たのはみごとだった。平皿の大きいのへ温室きうりを筏に、

こはだの細引、そぎ独活に大はしら、生海苔にあなごのしら焼、鯛の皮に

ゆがき三つ葉、とり貝に芽紫蘇、みなほんの一ト口一ト摘みずつである。

いったい一人がどれだけの割当になるのだか、もしこれが自分に出されたのなら

遠慮で箸ものばせず、味は涎だけで賞玩するよりほかはないと梨花はおもう。

そういう美しさ利口さは、さすがに花街である、しろうとの町にはない

ものである。(中略)だが又、なんとこのお摘みの大皿の繊細に美しいことか、

あわれにはかなく腹の足しにならない美しさである。

(本文より)


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