今日のおすすめ本。
2014年3月23日はこちらです。
『運命を蹴る』
「ちょっと」
ふいに声をかけられて、彼は横を向いた。
小柄な男が、通路に立って彼を見下ろしていた。
身体にぴったり合ったオリーブ色のサマーウーステッド背広に、濃い褐色の
タイ・シルクのネクタイ、淡いピンクのストライプの入ったワイシャツ、
一分のすきもない服装である。タイピンにあしらった小粒のエメラルドも
おそらく真物だろう。
男の眼は鋭く、なにかに挑戦するようにキラキラ光っていた。(中略)
その手に風巻は注目した。
小柄でほっそりとした身体つきに似合った、小さく、むしろ華奢なという形容が
ふさわしい掌である。
しかし、その手の甲、特に指のつけねにある関節のまわりの皮膚は厚かった。
生まれつきではなく、なにかを拳に打ちつけて、永年、鍛錬に鍛錬を重ねた結果
そうなったのであろう。その部分がひきつれ、皮が骨にくっついているのがわかる。
空手の有段者や、プロ・ボクサーなどの手に似ていた。
(本文より)
こちらは初版本で現在絶版となっております。
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