今日のおすすめ本。
2014年1月17日はこちらです。
『アンチェルの蝶』
遠田潤子著 光文社刊
「大将」ハンチングをかぶった年かさの男が言う。凄みのきいた声だ。
「どれだけ待たすんや」
「やっとか」もうひとりが肩を揺すった。「暑うて死にかけたがな」
どちらも、週の半分は夜を「まつ」で過ごす常連だ。
父の代から通ってくるが名すら知らない。(中略)
「ほんまにサービス悪い店や。お待たせしました、のひとこともあらへん」
男は悪態をつくと、藤太の正面、真ん中のスツールに腰掛けた。
「焼酎、牛乳割りや」
藤太はやはり無言で焼酎と牛乳とシロップをグラスに注いだ。
男はずるずると音を立てながら飲んだ。
「しょうもない一日やった」牛乳割りを飲みながら男が繰り返し続けた。
「ほんまにしょうもない」
藤太は黙って飯蛸を鍋に放り込んだ。これが「まつ」という店だった。
(本文より)
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