復活!!!
今日のおすすめ本。
2017年11月24日はこちらです。
『アルモニカ・ディアボリカ』
皆川博子著 ハヤカワ文庫刊
そうして、わたしは、いつのまにか、監獄の独房にいた。
幼いときの記憶が、いつから始まったと明確に区切りがつかないように、
いつどのようにして独房に入れられたのか、わからない。
熱く焼けた鉄鍋の中にいるみたいで、呻くと、それだけで痛みが
いっそう強くなり、地獄にいるのかとさえ思った。
独房ではなく、慈善病院の一人用の部屋だと気がついたのも、
何がきっかけだかわからない。いつのまにか、納得していた。
看護人から教えられたのだろうか。
アンディが父の住み込み弟子になってから洞窟の演奏会までの
歳月の記憶も、一時、まるで消えていた。断片的に浮かんだことを、
幾度も心の中で繰り返し、定着させた。でも、その後のことは、霧の中だ。
わたしの全身は繃帯でくるまれていた。与えられた薬を服用すると、
激痛は汐が引くように薄れた。
夜の病室は暗黒だった。
(中略)
夢の中でも、繃帯を剥がされ、叩かれた。
昼も、病室の中は薄暗い。そうして、夜は暗黒。
悪夢? 幻覚? あるいは恐ろしいことだが事実・・・?
幾夜も繰り返された。看護人−監視人?−は、お前が、自分で繃帯を
むしり取り、傷をひどくしている、と言うのだった。
いつからだが明瞭ではないのだが、わたしは、知っていた。
洞窟に落雷があった。
そのために火事になり、わたしは大火傷した。その瞬間の記憶はないのに、
頭の中に、言葉は浮かんでいた。躰の中で爆発が起きたような、
とんでもない衝撃の感覚が、これもいつからか記憶の中にある。躰の痛みは、
それが始めると、現実感がなくなる。苦痛への激しい恐怖だけが刻まれている。
(本文より)
こちらは初版本となっております。
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