今日のおすすめ本。
2016年3月2日はこちらです。
『ノルマンディー号爆破』
レナード・サンダース著 水野谷とおる訳 角川文庫刊
なによりも夜が嫌だった。昼間は、ラチュールはうつらうつらとまどろんだり、
ベッドでごろごろして、清潔なシーツの感触と心の安らぎを満喫した。
風通しをよくするため角部屋の窓という窓をあけはなっているが、下のほうから
聞こえてくる街の喧噪は遠く、そしてくぐもっていた。部屋を吹き抜ける
風のおかげで、いっこうに猛暑も苦にならない。ニューヨークがこれまでの苦労を
償ってくれているのだろう。
日に三度、礼儀正しい若者が豪勢な食事をディナーワゴンで部屋に運んでくる。
ラシュールは何年も口にしたことのないご馳走をむさぼるように食った—
新鮮な卵あり、部厚いステーキあり、本物のコーヒーあり、生きのいい野菜あり、
チョコレートムースあり。ラシュールはそのような愉悦がまだこの世に
存在することを、ほとんど忘れていた。天下の美味に、ラシュールは人知れず
舌鼓を打っていた。
心なごむ陽のあるうちは、そこばくの自信を回復しては、剣呑な手のこんだ
計画を実行する決意を新たにする。
しかし日暮れとともに、失敗したらどうしようと、またぞろ危惧の念が鎌首を
もたげてくる。そして夜ごとに、そんな取り越し苦労を脳裡から遮二無二
おっぱらう。
すでにこちらの正体は割れている。当局は何もかもお見通しだ、むこうに
何かの思惑があって泳がされているだけだと、ラシュールはそんな思いから
逃れることができなかった。募る恐怖に終止符をうつには。父が口癖のように
言っていた言葉を繰り返して唱えるほかはなかった。
『いいかね、ラシュール、夢想の世界と現実の世界との間には違いのあることを
勉強しなくちゃいけないよ。夢見心地で生きていくわけにはいかない。現実と
折り合うことを勉強しなさい。おまえの夢想どおりに事が運べば、山だって
動かせる！」
もうすぐ計画が実行されれば、父の言葉が正しいことが立証される。
(本文より）
こちらは初版本で現在絶版となっております。
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日々のおすすめ本から、
貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。
新保勇樹さん、待望の初写真集発！！
『Tenacity Blues Diary -Fragments of Life with The Birthday-』
新保勇樹著 ワニマガジン社刊
4630円（税抜）
カバー付き上製本
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