今日のおすすめ本。
2014年6月10日はこちらです。
『苦役列車』
西村賢太著 新潮社
正午になり、ようやく待ちに待った弁当が配られる。
この日のお菜は鮭のフライにナスの天ぷらだった。それに、
いくつかに仕切った容器の一角に、申し訳け程度にカレーの
ルーが入れられてある。これと、もう一つ別個の白飯の容器とを
持って、貫太は運河沿いの岸壁の縁に腰をおろし、足を下の川面に
垂らしながら冷えた飯を猛然と口に運びだす。同じ並びに、
やや間隔を保って何名かの人足も弁当を使っているが、互いに
口を利くことも意識し合うこともなく、憑かれたように箸を動かし、
アッと云う間に一人前の箱弁を平らげてしまう。
当然、これでは到底もの足りなく、むしろ底抜けな食慾の火に油を
注がれたみたいな塩梅である。倉庫の事務所脇にはカップラーメンの
自動販売機があり、昼の時間帯に背後の通りにホットドッグや
焼きそば等を売るワゴン車も停まっていて、これはなかなかの
繁盛ぶりをみせている。
金のある者は弁当と共にそれらを添えておいしそうに食べている
さまが、貫太には腹立たしく眺められて仕方がなかった。
(本文より)
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貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。